こんにちは、ボイストレーナーの金子です。
僕の知り合いに、高校時代バスケで全国大会まで
進出したとんでもない化け物がいるんですね。
元々はかなり160cmと、バスケをやる人間の中では
かなり小柄な方だったんですけど、
高校2年までの2年間で、身長が195cmまで伸びたんですね。w
“超”長身になった彼は、
ちょこっとジャンプするだけで
軽々ダンクできてしまいます。
だから、チームメイトからは
「やっぱお前すごいよな。」
と褒めちぎられるし、
周りも、チヤホヤします。
もちろん、彼の活躍を見ていて
僕も彼のことを本当にすごいと思ってみていました。
でも、張本人の彼だけは違ったんです。
なんと、
「身長が伸びてからずっと心苦しかった」
と言うんです。
詳しく聞いてみると、彼はこう言うのです。
「俺は身長っていうチートでダンクしてたようなもん。
俺の身長ならダンクなんか余裕でできてあたり
前なんだよな。。」
と、うつむいてました。
凡人の僕には、その感覚が1mmも分からなかったけど、
きっと上の世界を覗いた人にしか分からないこともあるんだろうなーと勉強になりましたね。
ただですね。
よく考えたら、ミックスボイスを習得した人たちも
バスケの彼の感覚と似てるところがあるみたいなんです。
たとえば、僕の生徒に
音楽系で活躍しているYoutuberがいるんですけど。
彼は、最初は
本当にびっくりするくらい歌が苦手で、音程が
うまく取れないところからのスタートだったのですが、
コツコツボイトレしていくことで、今では
誰もが羨むような美声を手にすることができました。
彼は、ついこの前まで
罪悪感があったみたいです。
彼曰く、
一緒に練習する仲間だったり、ファンだったりからは、
「音域広いね!」
「なんで地声で高い声出るの?」
「めちゃくちゃ歌うまい!」
と評価してくれる。
「でも実際のところは地声じゃないし、
ミックスボイスだからな。。」
と、みんなを“騙している(?)”ような感覚に
なってきたみたいです。
「いやいや、ネガティブすぎでしょw」と思ったんですけど、
まあ、たしかに彼の言うことも一理ありますね。
ミックスボイスを習得すると、どんなに低くても
hiGくらいまでは地声的な声で発声できるようになります。
ということは、逆に言えば
彼にとって高音域だった
hiB(B4)とか、hiC(C5)は
ミックスボイスが完成したその日から、“中音域”になったわけです。
(人によっては、低音域とさして変わらない感覚)
髭男のPretenderの最高音がhiC(C5)ですからね。
その音域が、中音域の感覚になるんだから
だいたいの曲はフツーに歌えるわけですよ。
ミックス習得している人からすれば、
「なに当たり前のこと言ってんの?」って思うかもですけど、
ボイトレをかじってないふつうの人たちは、そのことを全く知りません。
当然、みんな
地声と裏声の2つしか存在しないと思っています。
だから、たとえミックスで強めに高音を出しても
周囲の人には“透き通った高い地声”くらいにしか聞こえないわけです。
ここで歌う側(彼)と、聴く側(ファンたち)のギャップが出ます。
歌い手の彼からしたら、鼻歌感覚でミックスボイスで楽勝で高音を出しているつもりでも、
周りは狂ったように大絶賛する。
これが毎日毎日毎日毎日、終わりなく続いていく。
人間、「自分がたいしたことをしていない」と自覚しているのに、
過剰に称賛されつづけると、今度は精神的にまいってくると言われていますからね。
どんなに周りが彼を評価しても、
スポットライトを当てられても
彼の心の中は曇り空。
見知らぬバンドのメンバーたちから
から「ぜひうちのバンドに入ってくれ」
とラブコールを送られて、つけまわされる。
ファンから
コメントやファンレターがドサドサ届く。
たまの息抜きでふらっとカラオケにいったら、
ドアの外にちょっとした聴衆の列ができていることもある。
(結局、落ち着かないので、
今の彼は個室のカラオケバーにしか行けていません)
こんなことが現実に起きてる彼を見ると、
めちゃくちゃ羨ましいように聞こえるかもしれません。
でもそんなことは、今の彼にとっては当たり前の”日常”です。
だから、どうしても内から溢れ出る罪悪感が勝ってしまう。
本当の意味で喜べない。
ついこの前まで、ごくごくふつうの大学生だった彼が、
こんな状況になったのを見ると、本当にたいへんな時代だなと思いますね。
だから、僕は伝えたいです。
今ボイトレを頑張ってるなら、それが花開いた時も、
「今まで自分は人一倍努力してきたぞ!」
ってことを、永遠に忘れて欲しくないんです。
たとえば、
ミックスできてる人は分かると思うんですけど、
まともな訓練方法を知ってる人にとって
ミックスは言われてるほど難しいテクニックでもありません。
だからなのか、
あっさりとスキルを習得した人たちほど
自分の今までの努力を
きれいさっぱり忘れちゃうんですよね。
で、そんな状態で
周りから意味不明なくらいめちゃくちゃに褒められたり
するもんだから一気に頭が混乱する。
結果、自分を過小評価するようになって自信を失っていく。
こういう人、本当に多いです。
だからこそ、たとえスムーズにスキルを習得したとしても、
それは、“正しい知識を選ぶ目があった”って思ってほしいんです。
真っ当な知識を選んで、効率よく習得することだって立派な努力のひとつです。
彼みたいに、努力して
せっかく未来の時計が動き出したのに、モヤモヤするなんてことになってほしくありません。
ぜひ今日の話を覚えておいてくださいね。