趣味レベルの落とし穴
こんばんは、ボイストレーナーの金子です。
「プロを目指すわけじゃないから」
「カラオケで上手く歌えれば十分だから」
「趣味でバンドやるから」
こんなふうに、
趣味レベルだから、身につけるスキルもそこそこのレベルで十分でしょ。
と思っている人が意外に多いみたいです。
たとえば、僕の友人がその一人です。
彼は”カラオケで上手く歌いたい”というレベル感、
つまり趣味レベルで歌が上手くなることを目指していました。
そして彼は
ミセスの大森さんや、米津さんみたいな
地声感がきちんとありながらも美しい声が好きだったんですね。
だからこそ、ひたすらミックスボイスを習得する練習に明け暮れていたのです。
喉のパーツを分離して、強化して、調整する。
そんな王道の方法で、着々とミックスボイスの練度を高めてたみたいです。
ただ、彼が目指しているのは張りのある強い声だったので、
ミックスだけでは不十分でした。
「だから僕は、彼にベルティングを習得しないと
地声感は出ないと思うよ」
と軽くアドバイスしました。
すると、
「別にプロを目指すわけじゃないから、ミックスで十分だよ！
趣味で歌うだけだから、まずはミックスを極めてみるわ」
と、ニコニコしながら話す彼。
その時、僕の本音を言えば、
「絶対ミックスボイスと並行してベルティングをやった方がいいよ！」
ともう一度強くアドバイスしたかったです。
でも友人とはいえ、
他人の恩着せがましいアドバイスほど
一般的にはうざったいものってないじゃないですか。汗
だから結局は「頑張ってね！」
と明るく声をかけることしかできなかったのです。
そして、その１年後
突然、彼からラインがありました。
そこには、
「歌やめようか迷ってる」と一言だけ。
何があったのか分からかったのですが、嫌な予感がしたので、
休日に一緒にご飯を食べることにしたのです。
そこで彼は、これまでの経緯を全て話してくれました。
徐々に高音が裏声の体感になってきたこと。
気づいたら張り上げた声を出せなくなっていたこと。
声量のある声が出せなくなっていたこと。
つまり、彼の高音は弱々しい裏声のまま固着してしまったのです。
案内などでもお話ししている通り、
ミックスボイスの訓練に集中すると、どんどん高音の地声感が失われていき、
最終的には裏声っぽい声のまま固着してしまいます。
なぜなら、ミックスボイスを作っていく過程で、
地声感を作る筋肉である「内筋（ないきん）」の働きが死ぬからです。
ミックスボイスは、地声と裏声をつなげることによって習得します。
だからミックスを練習し続けることは
喉に「高音は裏声で出せよ」と何度も何度も
刷り込んでいるのと同じことなのです。
そして一度固着した裏声感は２度と抜くことができません。
言い方悪いですが、一度固着してしまったら
死ぬまで地声感のある高音で歌うことはできないのです。
彼は、
「本当は地声感のある太い高音で
高音を出したいのに、趣味レベルだからこれで十分だと
自分に何度も言い聞かせている」
と、大粒の涙をポロポロと流しながら
胸の内をさらけだしてくれました。
そんな彼のくしゃくしゃに崩れた顔を見て、
僕は彼に真剣に注意しなかったことを
ひどく後悔しました。
なんであのときもっと真剣に注意しなかったのか。
なんで嫌われてもいいから
本気でベルティングをやらせなかったのか。
彼にベルティングをやってもらわなかったことを
心底後悔してます。
結局、僕は自分が一番可愛かったんですね。
心のどこかで彼に嫌われたくなかったから、
彼のことを一番に考えて注意できなかったのです。
そんなの優しさでもなんでもありません。ただの臆病者ですよね。
本当に本当に後悔してます。
そしてこのことから学んだのは
僕も含めて、
人間は、未来のことだと
都合のいいように物事を捉えてしまう
ということです。
たとえば、ボイトレでも
未来のことは、まあなんとかなるでしょ？
と楽観的に考えてしまうんですよ。
・ミックスが裏声っぽい声“とはいえ”
そこそこ強い声にはできるだろう…
・ミックスが声量がない“とはいえ”
そこそこ響きのある声は作れるだろう…
・ミックスだとパワーが足りない“とはいえ”
趣味レベルならミックスでも十分歌えるだろう…
そんなふうに、どうしても将来のわからないことは
良い方に良い方に
プラスで解釈してしまいます。
結果、心のどこかではベルティングの習得が必要だと薄々気づいていても、
ミックスボイスの練習しかやらなくていいや！
となってしまうのです。
もちろん、僕もそうでした。
プロを目指すわけでもあるまいし、
カラオケで上手く歌うくらいなら、ミックスでも十分だろ。
そう心の底から思ってました。
実際に、ミックスを完全に習得するまでは
ミックスで歌うとどんな歌声になるかなんて、
リアルには想像できないですからね。
だから楽観的に、「ミックスで十分だろ〜」と考えてたんです。
でも、もしその考えのままミックスボイスの練習に集中してしまっていたら、
きっと、僕も友人と同じように最悪の結末になってたのは間違いないです。
そこに待ち受けているのは、極めて現実的な結果なのです。
僕は嫌われてもなんでもいいから
あなたのために
ここでは未来の”冷たい現実”をここでハッキリ言います。
“ミックス単体”では
地声感は全く出ないし、
声量も出ないし、
それを声の響きで補うこともできません。
カラオケで歌えば、まず第一声で
「それ裏声？」と周囲から不思議そうに聞かれる裏声っぽい声。
バンド仲間が趣味レベルで演奏する楽器にさえ埋もれてしまう小さい声。
それが本来の純粋なミックスボイスです。
そしてあなたがその声で歌うことになったとき
その歌声で本当に満足できるのか？
限界まで頭を捻ってイメージしてみてください。
その答えが全てです。
そこにプロレベルも、趣味レベルも関係ないはずです。
そもそも趣味レベルで歌えればいいと本気で思っているのなら
きっと初めからボイトレなんてしてないはずですよ。
趣味レベルで歌えればいいなら
ボイトレなんて必要ないからです。
それこそ歌いやすくなるまでキーを下げればいいし、
高音も裏声で歌えばいいわけですよね。
無理しないで歌える分、原曲キーで無理して歌うより
上手く歌えるかもしれません。
でもあなたはあえてその道を選んでいないわけです。
楽に高音を出したい。
それも、裏声でもなく裏声っぽいミックスでもなく、
地声のようなパワフルな高音を出したい。
そう思っているからこそ今こうしてこの記事を読んでくれているはず。
だとしたら、あなたが目指しているのは
十分プロレベルです。
心のどこかでは
「趣味レベルじゃ足りない」って思ってるはずです。
心のどこかには
最低でも「歌上手いよね！」
と周囲から褒められるくらいの理想の歌声を手に入れたい
という想いがあるはずです。
もちろん、僕だってそうです。みんなそうです。
だから、自分の心の声に
“趣味レベル”なんて言い訳で蓋をしないであげてください。
大切なのは、趣味レベルとかプロレベルだとか、
そんなことではありません。
あなたが満足できる声で歌えるのか？
本当にその声で一生を終えることに後悔しないのか？
ただそれだけです。
このことを知った上で
ベルティングをやるかやらないかを判断してもらえれば
きっと彼のように数年後に後悔することはないと思います。
ベルティングを習得して、力強い高音を出したい方は
BMAで力強い高音を出せるようにしましょう。
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